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名古屋高等裁判所 昭和40年(う)742号 判決 1969年5月30日

本籍

愛知県一宮市今伊勢町本神戸字無量寺一、一三六番地

住居

名古屋市千種区堀割町二丁目二一番地

会社役員

成瀬洋三

大正八年三月一一日生

右の者に対する出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律違反・所得税法違反被告事件につき、名古屋地方裁判所が昭和四〇年一〇月二六日言い渡した有罪判決に対し、被告人から適法な控訴の申立があったので、当裁判所は、検察官船越信勝出席のうえ、審理をして、次のとおり判決する。

主文

原判決を破棄する。

本件を名古屋地方裁判所に差し戻す。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人天羽智房、同阿久津英三共同作成名義の控訴趣意書に記載されているとおりであるから、ここにこれを引用する。

控訴趣意第一の論旨(原判示第一の(二)および同第二の(一)、(二)の各事実に関する事実誤認の論旨)について。

右論旨は、多岐に亘つているが、要するに、(イ)原判示第一の(二)の事実に関し、被告人において、同原判示摘示のごとく、一〇〇円につき、日歩三〇銭以上の高金利を徴取するような出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律違反の行為をした事実が最も存しないから、原判決の右事実認定は誤認である。といい、また(ロ)原判示第二の(一)、(二)の各事実に関し、原判決が、被告人の昭和三〇年度および昭和三一年度の各所得金額とその各適脱税額について、被告人が、原審で主張した各金額を認定しないで、本件起訴状記載のそれよりも僅かに低額に認定したのは、結局事実を誤認したものであり、原判決には理由のくいちがいの違法もある、というのである。

そこで、右各所論につき判断するに先だち、職権で原判決審を検討するに、原判決は、その罪となるべき事実として「被告人は、第一、(一)昭和二九年一〇月初頃より名古屋市昭和区雪見町一丁目一八番地で、手形割引の方法による金銭の貸付又はその媒介をなす業を開始したが、昭和三二年五月三一日に至るまで大蔵大臣に対し右営業開始に関する所定の届出をなさず、(二)昭和三〇年四月三〇日から昭和三一年一二月二一日までの間前後七二回にわたり別紙犯罪一覧表記載(ただし本一覧表は、当審の本判決書に編綴しないで、原判決書末尾添付の同一覧表を引用するから、同一覧表参照のこと)のとおり、同表番号1から43までは名古屋市熱田区横田町二丁目二二番地株式会社藤田製作所において、同会社に対し、川村一男との間に、同表番号44から70までは同市中区鶴重町二丁目一九番地東京白煉瓦株式会社において、同会社に対し、花村欽二又は小室秀弥との間に、同表番号71、72は同市中区南大津通り四丁目一番地喫茶店「シエル」において、株式会社伊藤鋳造所に対し、高須恒雄との間に、いずれも手形割引の方法による金銭の貸付を行うにあたり、割引料日歩を同表割引日歩欄記載のとおり定め、貸付の都度、右割引料に相当する金額(同表天引利息欄記載)を手形額面金額から天引して受領し、残額(同表交付額欄記載)を前記各会社に交付する契約を結び、以て一〇〇円につき一日三〇銭をこえる一日三五銭ないし四七銭の割合による利息(同表借受日歩欄記載)の契約をなした旨の出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律違反の各事実のほか、第二の(一)、(二)として、被告人の昭和三〇年度および昭和三一年度における各所得税法違反の各事実を判示したうえ、その法令の適用の部の前段において、「被告人の判示第一の(一)の所為は、出資受入、預り金利等の取締に関する法律一二条一号、七条一項に、同(二)の各所為(別紙犯罪一覧表番号1から43まで、44から70まで、71と72はそれぞれ包括して)は、いずれも同法五条にそれぞれ該当するところ、同(二)の各罪につき、所定刑中、懲役刑を選択することとし、‥‥(中略)‥‥判示第一の(一)の罰金刑は、同法四八条一項により、右の懲役刑と併科することとし、‥‥」云々と説示し、(イ)これによれば、右の懲役刑に併科されるべき罰金刑は、判示第一の(一)の罪についてだけであると解するの外ないのであるが、その後段および主文第一項において、「被告人を懲役一年六月および判示第一の各罪につき罰金二万円に‥‥(中略)‥‥処し、」云々と説示しており、(ロ)これによれば、右の懲役刑に併科さるべき罰金刑は、判示第一の(一)の罪だけでなく、同罪を含む判示第一の各罪であると解され、右の(イ)、(ロ)の間には、明らかなくいちがいがあるばかりでなく、主文と理由との間にも亦くいちがいがある場合にあたるので、原判決には、右の点において、理由くいちがいの違法があるものといわなければならない。

次にまた、原審公判において、検察官が被告人に対する本件各公訴事実に対する証拠として、その取り調べを請求した原判決挙示の各証拠、特に、原判決書末尾添付の別紙第四表証拠欄記載の東京白煉瓦株式会社、株式会社藤田製作所および株式会社伊藤鋳造所に関する各証拠を検討し、該証拠に基づいて、原判示第一の(二)の各事実に対応する検察官の被告人に対する出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律違反の各公訴事実すなわち本件記録に編綴された被告人に対する昭和三三年三月八日付起訴状記載の公訴事実および同起訴状末尾添付の別表を仔細に調査検討すると、同別表中には、該手形の割引年月日欄、手形満期日欄、期間欄、差引手取金額欄および借受日歩欄の各記載に若干の誤記、誤算等のあることが窺知され(当審第五回および同第七回各公判における検察官の釈明、特に当審第七回公判において提出された名古屋高等検察庁検事船越信勝作成名義の「第一審判決書中の計算誤謬について」と題する書面参照)、しかも右の出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律第五条違反の罪は、後述のとおり、金銭の貸付を行う者が同条所定の高金利契約をし、又は高金利の利息を受領した都度、右の犯罪が成立すると解すべきであるから、原審としては、須らくさきの点について、検察官に対し、訴因の変更ないし訂正等の手続を求るなどして、十分な審理を尽すべきであつたのにかかわらず、事ここに出ず、漫然原判示第一の(二)の各事実を認定したため、原判決には該事実に関し、若干の事実誤認ならびに訴訟手続の法令違反等の違法の存することが顕著であり、また、右の当審第五回および同第七回各公判における検察官の釈明ならびに当審第五回公判における証人佐治実の供述および同証人作成の調査報告書二通によれば、原判決書末尾添付の第一表昭和三〇年度収支計算書、同第二表昭和三一年度収支計算書、同第三表税額計算書および同第五表割引料収支明細表中にも、それぞれ誤記または誤算等のあることが認められ、これによれば、原判示第二の(一)、(二)の各事実についても、それぞれその総所得金額および所得税逋脱金額の点において、事実を誤認した疑いが、極めて濃厚である。

更に敷衍すると、仮に原判示第一の(二)の事実が適法に認定し得るとしても、この点につき、原判決は、原判示第一の(二)の各所為のうち、原判決書末尾添付の別紙犯罪一覧表番号1ないし43各該当の各犯行、同表番号44から70各該当の各犯行および同表番号71、72各該当の各犯行をそれぞれ包括一罪と認定判示しているが、出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律第五条違反罪は、金銭の貸付を行う者が、一〇〇円につき、一日三〇銭をこえる割合による利息の契約をし、又は、これをこえる割合による利息を受領することによつて成立するのであるから、金銭の貸付を行う者が右のごとき高金利の契約をし又は右のごとき高金利の利息を受領した都度、右の犯罪が成立すると解するのが相当であるから、原判決の右のごとき認定にも、これが事実誤認ないしは法令の解釈適用に関し、疑義を避けがたいものといわなければならない。

上来説明のとおりであるから、原判決には、理由のくいちがいの違法があるのに加え、審理不尽に基づく事実誤認ならびに訴訟手続の法令違反の疑いがあつて、それが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、原判決は、結局全部破棄を免れない。

而して、本件につき、当審において、前記各点に関し、その事実調べをなすことは相当でないと思料されるので、弁護人の前記控訴趣意および控訴趣意第二の論旨(量刑不当の論旨)に対する各判断を省略して、刑事訴訟法第三九七条第一項、第三七八条第四号、第三七九条、第三八二条により、原判決を破棄し、同法第四〇〇条本文に従い、本件を原裁判所である名古屋地方裁判所に差し戻すこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上田孝造 裁判官 斎藤寿 裁判官 藤本忠雄)

昭和四十年(う)第七四二号

控訴趣意書

所得税法違反等 被告人 成瀬洋三

右刑事事件に付茲に控訴趣意書を提出致します。

昭和四十一年二月二十一日

右主任弁護人 天羽智房

弁護人 阿久津英三

名古屋高等裁判所第四部 御中

控訴理由

原判決は被告人が

(一) 大蔵大臣に対し手形割引の方法による金銭の貸付等の営業開始に関し大蔵大臣に営業開始の届出をなさなかつたこと

(二) 手形割引の方法により金銭の貸付を行うにあたり、割引日歩を百円に付一日三十銭をこえる一日三十五銭乃至四十七銭の割合による高利息の契約をなしたこと。

(三) 昭和三十年度所得金額が少くとも六、九〇一、二四三円であつたにも拘らず所定の申告期限内に所轄税務署に所定の申告をせず右所得に対する所得税三、八〇五、二八〇円を不正に逋脱したこと。

(四) 昭和三十一年度所得金額が少くとも一九、一四二、二二〇円であつたにも拘らず之を密匿して所定期限内に所轄税務署に所定の申告をせず右所得に対する所得税一一、七三七、四三〇円を不正に逋脱したこと。

の四点に付犯罪事実の認定をして被告人に対し有罪の判決の言渡を為した。

然し該判決は次の如き破棄事由あるものと思料する。

第一、原判決は判決に影響を及ぼすべき事実誤認の違法がある。

一 被告人は原判決の罪となるべき事実第一の(二)摘示の如く百円に付日歩三十銭以上の高金利を徴取するような所謂高金利取締関係法律違反の行為はしていない。

(一) 被告人が原判決事実摘示の第一の(二)同添付別紙犯罪一覧表記載の手形割引関係の金利は日歩十三銭乃至二十七銭であつたことは被告人が原審に於て陳述し且又「関係者各主張の対比表」と題する書類を以て上申した通りである。

(二) 金融業者間には一般に割引日歩の市場相場と云うものがある。夫れは振出手形の振出人会社の株式が株式取引所の第一部又は第二部に上場されているかどうか、或は資本金の大小信用度の高低等の理由によつて超一流、一流、二流、三流、四流等との格付があり、信用度の高い程、割引日歩は安く、信用度の低い程割引日歩は高いのが普通であることは原審証人足立由光、小室秀弥、加藤孝教、亀田昌衛等の証言でも覗知し得られる処である。又経済の実情からしても手形割引を受ける方の側から云えば、一般に日歩の安い処を選び高い方は之を避けるのが実際でもある。従つて自ら其処に日歩の市場相場と云うものが生れ、夫小によつて一般に取引が行われているものである。

被告人も夫れによつて取引していたことは原審証人加藤考教、小室秀弥、亀田昌衛等に証言によつても推認される処である。

殊に証人小室秀弥の原審第三九回、法廷に於ける「成瀬の割引料は一流手形で日歩七、八銭、二流で拾銭乃至拾二銭、三流で十五銭乃至十七銭位であつたと証言していることによつても原判決が事実誤認をしていることが認められる。

(三) 尚又原判決認定の高金利割引人は何れも其の後倒産会社となつたものである。そして其の原因は事業の不振にもよること乍ら其の他にも経理担当係員等の経理の杜撰さと放慢さが競合し東京白煉瓦(株)や(株)藤田製作所等の記帳の仕方は日歩を正確に記帳せず消耗品購入等の名目で日歩の付け替をしていることは原審証人川村一男、毛利美代治等の証言等によつても明白である。

之等の作為をしたことは担当係員の背任の疑惑の影が濃厚にかけられ又帳簿の記載自体に信をおくことが出来難いものがある。然るに原審は夫等のものの供述乃至右帳簿の記載を証拠として採りあげていることは全く採証の原則を誤つたものと云はなければならない。

(四) 更に伊藤鋳造所関係の手形の割引に付ては高須恒雄の外高木清外数名の金融「ブローカー」が介在し各々が相当の手数料を天引して取得しているが夫小を伊藤鋳造所に知らせていない。被告人とじては該手形に付ては高木清が被告人との交渉に当り被告人から再割引を受けたものである。其の日歩は二十三、四銭であつた。然し右高木等は手形割引依頼主側に自己の仲介手数料乃至再割引料を秘匿し於も無報酬で仲介をしてやつたゃうに糊塗した言動を等し殊に過少の金額を記載した受取証書等を徴収した為、原判決では被告人が恰も日歩三十銭以上の高金利を取得したゃうに誤認されるに至つたものである。

殊に高木清は原審洛諮問ぎはになつて被告人に対し原審で証人としての証言に日歩計算と仲介人等の手数料の点に付思ひ違いをしていたとの申出があつたので原審で再証人申請をしたが不幸にして却下されたのは全く違憾である。

二、原判決は其の事実摘示の第二の

(一)の昭和三十年度

(二)の昭和三十一年度

の各被告人の所得額と其の逋脱税額の金額認定に付誤算を犯している。

(一) 被告人の本件公訴事実関係の右両年度の所得の状況は原審に提出してある前示「関係者各主張の対比表」中被告人成瀬洋三の主張欄記載の通りで原審判決の認定数字より著しく低いのである。

原審法廷に於て取調べられた証人の証言によつても被告人の本件公訴事実記載の所得額(検察官冒頭陳述書に明細あり)より差引かるべきものは少くとも別添明細表の通り

昭和三十年度に於て合計約金六百九十八万一千四百九十一円

昭和三十一年度に於て合計約金八百四万三千五百五十九円

以上合計約金一千五百二万五千五十円はあり其の分丈減額され従つて税額もこれに対応して減額されるべきものと思料される。

然るに原判決は起訴状記載の所得額より昭和三十年度に於て第一表として

支出の部に

検察官主張額 判決認定額 差

支払割引料 一、四一七、七一五円 一、六八八、九七一円 二九一、二五六円

交通費 一、八二七、二三〇円 一、八二七、二三〇円

当期利益金 八、九二九、七六六円 六、九〇一、二四三円 二、〇二八、五二三円

収入の部に

検察官主張額より十九万八千四百四十二円少く認定し

結局差引三十年度所得額を金二百二万八千五百二十三円低く認定したに過ぎない

昭和三十一年度に於て第二表として

支出の部に

検察官主張額 原判決認定額 差

自動車修理費 一六六、五〇〇円 二二四、七三〇円 五八、二三〇円

交通費 一二二、八四〇円 一、四七一、〇〇〇円 一、三四八、一六〇円

当期利益金 二〇、五八七、八三九円 一九、一四二、二二〇円 一、四四五、六一九円

収入の部に

検察官より約金三万五千六百二十九円多く計上し

結局差引三十一年度所得額を金百四十四万五千六百十九円低く認定した丈である。

次に税額に付ては

検察官主張額

昭和三十年度 五、一二三、八〇〇円

同三十一年度 一二、六七七、〇七〇円

に対し原判決は第三表として

昭和三十年度 三、八〇五、二八〇円

同三十一年度 一一、七三七、四三〇円

と算出して認定している

然し右は尚未だ被告人に対し過大に失する。

(二) 被告人が収受したと主張している割引日歩等と関係人が国税局及び検察庁の取調等に当り供述した夫れ等との喰い違いの原因は

(1) 被告人の直割先が実際の取引よりも被告人に対し高く日歩を支払つたように計算して記帳し其の差額を他に流用していること

(2) 被告人の再割引先に於て

(イ) 実際よりも日歩を安く記帳していること

(ロ) 再割引期間を実際よりも短縮して記帳していること

其の方法として先ず個人で手形を割引いた後暫く期間経過後に関係会社で金利を下げて再割引をし乍ら右個人の割引と右双方の金利の差額を伏せて其の部分の金利を被告人が取得しているゃうにしていること

(3) 仲介人等が被告人より仲介手数料等を貰つてい乍ら之を隠していること

等によるものである。

(三) 被告人の本件手形割引等に付捜査段階で関係人が取調を受けるに当つて真実を上申していなかつた点が原審の証拠調で随所に発見された。

各関係人が自己の所得を当局より追及され其の結果自己に追加課税のあることを恐れて自己の所得を出来る丈少くして自己の所得を隠して供述したのを其の儘受け取られて被告人側に不利に計算されて被告人の所得が実際よりも過大に算定されて了つたことが本件の特異性である。

金融業者間には手形銘柄等により一般に市場相場があり又経済界の実状として夫れに従うのが通例で被告人も亦夫れに従つていたことは前示第一(二)の項に於て記載した通りである。更に原審証人足立由光、佐藤佐市郎、加藤肇、小室秀弥、高木清等の証言によるも同人等の捜査当局に対する供述調書や上申書の対被告人関係の割引日歩、割引手形料、割引期間殊に証人足立由光等が先づ個人で割引いた後暫く日数経過後に其の関係会社で若干日歩を低くして更に再割引をし其の金利の差額を証人側に取得し乍ら其の事実を伏せた儘説明せず夫れを被告人の所得に算入される様に誤つた計算をしたと供述をし又は上申書に記載したと証言して訂正している。

又東京白煉瓦(株)や(株)藤田製作所等の記帳の仕方は日歩を正確に記載せず消耗品購入等の名目を付けて記帳したと原審証人川村一男、毛利美代治等の証言は全く信を措くことが出来ない、之は全く其の分を同人等が擅に他に流用して動き乍ら夫れを隠匿して其の分を被告人の所得に帰せしめる様に故意に作為したものとしか考へられない。

又一般に市場金利相場がある以上取引は夫れに従うのが通例であり被告人も亦夫れに従つたことは右両会社等以外の本件他の取引口の金利関係と対比してみても判明することである。

佐藤佐(株)(株)足立商店、林(株)等は本件起訴の前及び後に於て数回に亘つて国税局の査察摘発を受けている。其のこと自体同会社等の記帳自体に信がおけない処があり従つてこれに基く関係人の供述書、上申書等も輙く措信出来ないことは同人等の原審公判廷に於ける証言等によつても推認し得る処である。

(四) 仮に被告人の主張の全部を容認することが出来ないとしても原判決の第五表の記載の認定数額と其の認定理由との間に次の様な矛盾がある。

(1) 横井建設工業関係の被告人の割引関係に付認定理由欄では加藤勝次郎の手数料として日歩六厘に相当する金額を割引料から差引いたとして

起訴額より

昭和三十年度未経過割引料 一、三七五円

同 収入割引料 一、九九六円

昭和三十一年度収入割引料 一〇、二一〇円

計 一三、五八一円

を控除し次の様な判決認定をした。

判決認定額 備考(起訴額)

昭和三十年度未経過割引料 八二、五一六円 八三、八九一円

同年度収入割引料 二二四、二九三円 二二六、二八九円

同三十一年度 同 五七五、二八五円 五八五、四九五円

然し原審証人加藤勝次郎は原審第二三回の法廷で上司の専務に告げてもらつた割引手数料丈でも四万円以上はあつた旨証言している。被告人は九万円以上を交付したと主張している。

之等に徴しても控除方が少なすぎる。

(2) 東京白煉瓦(株)関係では下田、小室、花村等の証言により左記各手形につき日歩割引料に疑義を認められるので銘柄前後の同種手形の割引状況などを考慮して実際日歩を推認し不二越鋼材、愛知製鋼、大阪窯業(手形整理番号No.1714No.1715No.1732 )丈に付他の低い日歩十銭と十四銭の分に合せた丈で昭和三十年度収入割引料の起訴額から九七、九〇二円を控除し、同年度割引料を七、二三二、八九二円と認定している。

然し右小室秀弥は原審第三九回公判廷に於て被告人から割引を受けた日歩は一流手形で日歩七銭乃至八銭、二流手形は日歩十銭乃至十二銭、三流手形で日歩十五銭乃至十七銭であつたとの証言があつたに徴し前示銘柄以外の手形に付該証言を昭和三十年度及び昭和三十一年度収入割引料から全然控除しなかつた原判決は事実誤認と理由齟齬の違法があるものと思料される。

之を考慮に入れれば前示所謂対比表記載の通りに昭和三十年度に於て計金三百三十八万円余、同三十一年度に於て計金二百四十五万円余を各収入割引料より控除さるべきである。

(3) 藤田製作所関係では川村等の証言により左記各手形につき日歩割引料に疑義が認められるので銘柄前後の同種手形の割引状況などを考慮して実際の日歩を推認するとして豊和織布、須賀機械、大東紡績の三銘柄(手形整理番号No.1886No.1887No.1889)丈に付起訴額日歩三十三銭を日歩十五銭と認定して昭和三十年度収入割引料から七七、九七四円を控除して同年度収入割引料を九三〇、三九六円(起訴額一、〇〇八、三七〇円)と認定した。

右銘柄以外の手形に付ては昭和三十年度及び昭和三十一年度収入割引料から全然控除しなかつた。

然し原審証人加藤考教の第三三回公判廷に於て自分は藤田製作所の整理に関係したが被告人の手形割引に付ては市場相場に従つて居り当時の市場割引日歩は一流手形四銭乃至五銭、二流手形七、八銭、三流手形十銭乃至十二銭、単名手形十七銭位であつた外藤田製作所の経理処理が 撰で記帳日歩が市場相場より高く記帳されていたので担当係員の川村等に諮問したことありとの証言等を考慮すれば之又原判決は事実誤認と理由齟齬の違法があるものと思料せられる。

(4) 再割引先の足立商店関係では足立由光等により東京トヨタ自動車振出にかかる左記各手形の割引日歩が足立商店の帳簿上五銭として記載されているがこれより高い日歩で割引かれていたこと其の差額は同商店の簿外収入となつていたことが夫々認められるのであるが実際日歩は同人作成の上申書の個人割引分の明細表に同種手形に付日歩七銭で割引いていたことが認められるのでこれと同じ取扱をしていたものと推認したと判示し東京トヨタ自動車関係の整理番号二〇一九乃至二〇四四迄の手形二十六通に付計金二七一二五六円を昭和三十年度支払割引料(起訴分は六七七、五四二円)からして九四八、七九八円と認定している。

処で原審第二八回公判廷で証人足立由光は被告人持込の山直毛織、東京トヨタ等の手形に付ては先づ自分個人が割引いた上後日足立商店で再割し其の間日歩三銭乃至五銭宛の利銷を取つていたとの証言がある。従つて右証言によるも東京トヨタ関係以外の全手形に対し右利銷を加算すべきである其の分丈でも

昭和三十年度 一、〇九七、四八〇円を加算すべきである(被告人所得よりは控除)

(5) 伊藤鋳造所関係では手形整理番号二八八一の金額十九万四千三百四十三円の口に付原審証人高木清は第三〇回公判廷に於て右手形に付ても割引手取額の約一%を仲介人の高須恒雄が取得していると証言している。従つて之の分としても他の手形(No2808~2811)に付原判決が昭和三十一年収入割引料から仲介人の手数料として交付額の一分を差引くと認定している以上は同様理由により約八千円余を控除すべきであるに拘らず其の手形に付ては高木は介在していないと認めると丈摘示したに止り控除しなかつたのは事実誤認の違法あるものと思料する。

殊に右高木は前示第一項に於て記載した通り其の仲介料は同人分の外関係仲介人数人介在の為実質上は原判決認定の額以上であつたことを被告人の許に申出で来り前示証言の誤りであつたことを詫びて来ている。

第二、原判決は其の量刑が著しく重きに失し不当であると思料される。

(一) 被告人は其の後過去の非を悔いホテル経営等を法人組織で経営し金融業から遠ざかり経理の規律も事務職員に正確に記帳せしめて改陵の実を示しつゝある。

(二) 被告人は国税、県税関係は国税局主張の分は全額完済である。これは計算の基礎に誤算のあつた分に対しても過払にある程支払済である。

(三) 被告人に対する原判の徴後一年六月(二年間執行猶予)と罰金二万円と罰金百万円及び罰金三百万円の併科刑は被告人の再起に対し洵に重きに失するものと思料するので何卒尚一層の減刑の上御寛大なる御判決を賜る様御願いする次第である。

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